私は以前から日本の喫煙問題について疑問を持っている。先進国の中で、日本だけ喫煙率がなかなか下がらないのはなぜなのか?
理由は明確だ。政策が中途半端なのだ。
現在、日本の成人喫煙率は約15.7%。これを2035年までに10%未満にするという目標が掲げられているが、今のペースでは到底達成できないだろう。
なぜなら、本気で喫煙率を下げたいなら、もっと大胆な施策が必要だからだ。
興味深いデータがある。タバコの価格弾力性はマイナス0.3からマイナス0.5程度。つまり、価格を10%上げれば需要は3~5%減少する。
これは経済学的に証明された事実だ。特に若年層はこの数倍も価格に敏感だという。
私が注目しているのは、2010年の日本の事例だ。1箱あたり約110円の大幅値上げを実施した結果、販売数は10%減少し、喫煙者数も大きく減少した。しかも税収は800億円増加している。
これは実に合理的な結果だ。ニコチン依存症の人はすぐには禁煙できないから、値上げ幅ほどには需要は減らない。結果として「健康面では喫煙減少、経済面では税収増」という一石二鳥の効果が生まれるのだ。
海外を見れば、もっと積極的な価格政策を取っている国は多い。オーストラリアでは1箱3000円を超える価格設定により、喫煙率を大幅に下げることに成功している。日本はまだまだ甘いと言わざるを得ない。
ただし、タバコ増税には逆進性の問題がある。日本では収入が低い層ほど喫煙率が高い傾向があり、結果として低所得者層が高所得者層以上にタバコ税を負担しているのだ。
この問題の解決策は明確だ。増税による追加税収を、禁煙治療費の助成や禁煙支援サービスの拡充に充てればいい。研
究によれば、タバコ値上げにより低所得者の方が高所得者より禁煙に踏み切りやすくなる傾向があることもわかっている。
つまり、適切な支援策と組み合わせれば、最大の利益を得るのは低所得者層なのだ。これは健康格差の是正にもつながる、極めて合理的な政策だろう。
禁煙外来の治療成功率は約34.5%。決して低くない数字だ。さらに企業と連携した取り組みでは、金銭インセンティブを組み合わせることで75%もの高い禁煙成功率を記録した例もある。
費用対効果の観点から見ても、禁煙治療支援は極めて優秀だ。喫煙に起因する医療費や生産性損失などの社会的コストは、2015年度の推計で医療費等で2兆500億円、広く社会全体の損失では最大7兆円に及ぶ。
これに比べれば、禁煙支援にかかる費用はごく僅かだ。
アメリカ食品医薬品局(FDA)の若年向け禁煙啓発キャンペーン「The Real Cost」では、投資1ドルあたり180ドルもの医療費・社会費用を節約できたという分析もある。
これほど明確な投資対効果を示す政策は他にないのではないか。最近普及している電子タバコや加熱式タバコについても、明確な方針が必要だ。
WHO(世界保健機関)は「加熱式タバコは有害物質への曝露を減らしても無害にはならず、健康リスクの低減に繫がるという証拠もない」と明言している。
https://diamond.jp/articles/-/37899...
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