富士山が世界文化遺産に登録されてから10年以上が経つ。その美しい山の裾野に、尿の入った、いわゆる「黄金のペットボトル」が次々と捨てられているという。
最初は半信半疑だった。だが、富士山麓の清掃活動に参加すると、すぐに現実に直面した。「これが尿入りのペットボトルですよ」
環境NPO「富士山クラブ」のスタッフがそう言って指さした道端には、コーヒー飲料のペットボトルが落ちていた。
空気のすき間なく、びっしりと紅茶色の液体で満たされた容器に、ある種の執念を感じた。いったい誰がこんなものを捨てているのか……。
10月上旬、富士山クラブが実行委員会事務局として開催した「ぐるり富士山風景街道一周清掃(山梨県側)」には行政職員や地域団体、一般の人ら、約60人が参加した。
ごみばさみとごみ袋を手にした参加者は午前10時に山梨県立富士山世界遺産センター(富士河口湖町)を出発。富士山を囲む幹線道路の一つ、国道139号沿いを歩きながらごみを集めた。
道路わきの草むらには食べ終わった弁当などが入れられたコンビニ袋や空き缶、ペットボトルが散乱していた。
目の前に見えるテーマパーク「富士急ハイランド」は、観光客でにぎわっている。
「この辺は比較的、人目があるためか、尿入りのペットボトルは少ない」と、富士吉田市在住で富士山クラブ・環境保全事業担当の荒井みずきさんは言う。
ごみの質が明らかに変わったのは国道139号から東富士五湖道路・富士吉田インターチェンジ(IC)につながる道路を歩き始めたときだ。
周囲は背の高い松の木が茂り、人けがなくなった。冒頭のとおり、道路わきに尿入りのペットボトルが落ちていたのだ。記者も発見した。パッケージは「コーラ」だが、中身の色は明らかに異なる。
その近くには、見た目では中身が判断できない「リンゴ果汁飲料」もあった。少し逡巡したが、ふたを開けて確かめることにした。
尿が発酵してできたガスがペットボトル内にたまり、開けると爆発的に噴き出すこともあると聞いていたので、慎重にふたをゆるめる。この日は気温が低かったせいか、ガスは噴き出なかった。
においもない、と思った。しかし、飲み口に顔を近づけた瞬間、「うわっ」。やはり尿だった。
時間が経ったためか、腐った魚のような、強烈なアンモニア臭が鼻をついた。胃の内容物がこみ上げ、吐きそうになった。少し、涙が出た。
手にもついたが、森の中で手を洗う水はなく、他人の尿をハンカチで拭く気にもなれず、木の幹にこすりつけて落とそうとした。だが、においは完全には取れず、勘弁してくれ、と情けない気持ちになった。
この日は、1時間ほどの清掃活動で約60キロのごみを収集した。「尿入りのペットボトルも30本くらい含まれていると思います」(荒井さん)。記者は3本回収した。
尿入りペットボトルが多く見つかるエリアは、富士吉田IC周辺のほか、国道139号沿いの青木ケ原樹海、朝霧高原だという。いずれも市街地から離れ、人目が少ない場所だ。
今回、清掃したのはわずか1キロほどの距離にすぎない。広大な富士山麓にはいったい何本の尿入りペットボトルが放置されているのだろうか。
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