押井(守):富野さんのアニメは、延々としゃべっているからね。
アクションしながら議論している。僕どころじゃないよ(笑)。
「押井映画は台詞が多すぎる」ってしょっちゅう言われるけどさ、
「だったら、なんで富野さんのことを誰も文句を言わないわけ?」って話だよね。
── 恨んでいるんですね(笑)。
押井:恨んでないよ。共感しているんだよ。僕は富野さんのことが好きなんだよ。
実は宮さん(宮崎駿)も富野さんのことが大好きなんだよ。
宮さん、よく富野さんに電話しておしゃべりしていたからね。
宮さんと富野さんって実は仲良しなんだよ。
── ええっ!?
押井:これ、面白いでしょ? 宮さんは虫プロが大嫌いだから、
出崎統さんとか『あしたのジョー』(70-71)とかが大嫌いなんだけど、
虫プロ出身の富野さんのことだけは大好きだった。
宮さんは苦労人が好きだし、富野さんが虫プロで苦労していたからという背景もあるんだろうけどさ。
押井:僕も宮さんも富野さんのことが大好きだけど、富野さんは自分を卑下しがちだよね。
つくづく屈折している人だよ。
── といいますと?
押井:根性が曲がっているという表現は正しくないけど、富野さんは「アニメ屋ごときが」とか
「自分は作家になれなかった人間ですから」とよく言うでしょ。
「所詮はおもちゃ屋の宣伝映像を作っているだけですから」とかね。
むかしはアニメーションという業界自体が社会の吹き溜まりではあったんだよ。
挫折した人間が寄り集まって傷口を舐め合っている感じだった。
そういう意識が横行していた時代だったし、富野さんはその意識をいまだに引きずっている人。
僕がアニメ業界入りした頃もそうだったんだけど、僕はその自嘲的な意識がイヤでイヤで耐えられなかった。
「なんでそんなコンプレックスを持たなきゃいけないんだろう?」と僕は思っていたし、いまもそう思っている。
自分の仕事にもっと自信を持っていいはずだよ。
う~ん。だから、富野さんのことは好きだけど、「会いたいか?」と言われると、微妙だね(笑)。
会って、ケンカになったこともある。
うちの姉ちゃん(最上和子)が2007年に上野の大ロボット博で舞踏をやったときに、富野さんが見に来てたんだよね。
そのとき、ちょっと揉めてケンカになった。
── ええ!?
押井:本当にケンカになった。わめき合いに近かった。「うるさい!」とか言って。
それでね、もう会うこともないかなと思っていたんだけど、
しばらくしたら富野さんが後ろから近づいてきてね、
「押井ちゃ~ん、さっきはゴメンねぇ」って抱きついてきた。
── 爆笑。
押井:猫なで声で(笑)。しょうがないので「もう分かったから。離してよ」って言って仲直りした。
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